研修医の方へ:心臓血管・高血圧内科学の多彩な研修イメージ
循環器救急
2019年現在の救命救急センターには心臓血管・高血圧内科学より循環器専門医2名が出向しており、それぞれサブスペシャリティとして超音波専門医資格と不整脈専門医資格を持っています。心電図、エコーを用いた的確な診断と入院患者のvolume管理、至適な薬剤選択を行い、侵襲的治療の必要性を判断し、各科に適宜コンサルティングを行っています。救命救急センターでは専門性を生かしつつ、専門に囚われず幅広く多くの症例を経験でき、主疾患、並存疾患に関わらず循環器疾患を持った一人の患者を診る力がつくように思います。
救命救急センターの勤務は2交代制で、朝夕の申し送りで始まります。平日の朝の申し送り時には医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、研修医、学生が出席してカンファレンスを行います。入院中の全患者を診断、経過、治療方針について検討します。そして当直帯に来院した外来患者についても症例提示を行い、搬送理由、検査結果、診断、治療内容について報告を行います。この時心電図を確認し、スタッフ全員の心電図の判読力が上がることを期待しています。
緊急搬送患者の受け入れや急変患者の対応が主な業務であり、いつ来るともしれない緊張感が常にあります。しかし、勤務は時間交代性であり、on/offがはっきりしており、メリハリをもって緊張感が続く仕事に集中して当たることができ、緊急搬送が重なったときも充実した忙しさを実感できます。さらに救命できたときは何物にも代え難い喜びがあります。
救急車、ドクターカーやドクターヘリによる救急搬送患者の受け入れやwalk-in患者に対応する救急外来では、循環器関連患者に限らず、脳外科の協力が必要な脳卒中やてんかんなどの頭部疾患、糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群のような内分泌疾患による意識障害、重症膵炎や胆石症といった消化器疾患、肺炎や尿路感染からくる敗血症、ダニによる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やリケッチア症、耳鼻科の協力が必要な急性喉頭蓋炎、自殺企図による薬物中毒や高所墜落、整形外科の手術や放射線科の塞栓術が必要な交通事故による高エネルギー外傷、眼科の協力が必要な眼外傷、高気圧酸素療法が必要な減圧症など多岐にわたり、多くの科と協力して幅広くシームレスな診療連携を経験できます。
もちろん、心肺停止、急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症)、致死的不整脈(心室細動、心室頻拍など)、心タンポナーデ、急性大動脈解離、大動脈瘤切迫破裂、急性肺血栓塞栓症、急性心不全、急性末梢動脈閉塞症、高血圧緊急症、失神(徐脈性不整脈や神経調節性失神)、感染性心内膜炎などの循環器関連疾患であれば、専門性も高く、循環器を専門としている我々の出番です。救命救急センタースタッフや心臓血管内科および心臓血管外科のサポートのもと専門性の高い治療を行います。
救急外来での業務だけでなく、救急外来からの重症患者の受け入れ先である救急病棟と非重症患者や救急病棟からの退出先である一般病棟での加療・管理も重要業務です。超重症患者は集中治療室(ICU)での管理となり、ICUスタッフにお願いすることになりますが、ICU患者であっても必要に応じて心嚢穿刺などの急変時対応を行っており、循環器疾患の相談窓口になっています。
精神疾患やせん妄・不穏の合併があればリエゾンにコンサルテーションし、早期離床をはかるためにベッドサイドでのリハビリテーションに入ってもらいますが、高齢な患者も多く、症状改善が得られても自宅退院がままならない患者も多く、地域連携室と協力して転院先を探すこともあります。急性期だけでなく、トータルケアを実践しています。
内科認定医、総合内科専門医、内科指導医でもあり、その知識をフル活用して診療にあたり、研修医や専攻医の指導も行っています。
また、複数の科の横断的な協力が必要な蘇生を必要とする院内急変(1191)はもちろん、「いつもと違う」とか「何かおかしい」といった看護師の気付きやvital変化を伴う状態悪化に対する院内救急対応システム(Rapid Response System: RSS)に即応し、文字通り駆けつけます。身体所見診察と携帯超音波を用いた簡易評価から状態把握を行い、状況によっては救急外来へ院内救急搬送して必要な追加検査、処置、治療を行います。病棟での管理が難しい場合にはICUで管理します。
一方で、心臓血管・高血圧内科大石教授と救命救急センター垣花教授の御理解のもと、不整脈専門医として週2日、心臓血管内科の不整脈治療(カテーテル室)の業務を兼任させていただき、専門的手技や最新の技術に遅れることなく研鑽を積むことができ、御高配に感謝しています。
一般業務とは別に、専門医の立場から、スタッフや研修医に対してエコー講義や心電図・不整脈講義を定期的に行い、業務に役立ててもらっています。
また、医療従事者のための蘇生トレーニングコース(ICLS)インストラクター/ディレクターの資格を持った救命救急センターの医師や看護師と共にICLSディレクターである内山先生にはICLSを院内で毎月開催していただき、研修医やコメディカルを中心にスキルアップを図っています。2014年2月~2019年8月の間に開催したICLSコースは45回で、受講者は278人でした。内山先生はICLS指導者養成ワークショップディレクターでもあり、ICLSインストラクター希望者の指導も行っています。
救急部門の専従医として3年以上の臨床修練を行うことで救急医学会専門医の取得を目指すことも可能です。循環器専門医で救急専門医は非常に貴重で期待されることが大きいと思われます。さらにICUで1年以上(専従医として12週間以上)の臨床修練をすることで集中治療専門医の取得を目指すことも可能になります。
高齢化に伴い循環器疾患を持った患者は増え、救急搬送された患者が循環器疾患を持っていることも多いため、循環器に精通した医師が救急の現場にいることは多くのメリットがあります。自分の専門性を生かして循環器救急疾患の初期対応はもちろん、多岐にわたる救急疾患まで経験でき、自分のスキルアップはもちろんのこと、救命救急センターをはじめとするスタッフや後輩医師のレベルアップにも役立つことができ、充実した時間を過ごせること間違いなしです。