鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学

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Department of Cardiovascular Medicine and Hypertension, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University

診療について

患者様へ:当科が専門的に行っている疾患・治療

患者様向け

心室頻拍のアブレーション

心室性不整脈のカテーテルアブレーション

心臓の電気の伝わり方

洞結節:正常脈の「舵取り」をしている。
房室結節: 心房から伝わってきた電気刺激を唯一心室に伝える「中継所」

心室性不整脈

心室性不整脈には、致死的ではないものの動悸を感じたり、出現頻度が多い状態を長く放置すると心機能低下を起こして、動いた時の息切れやむくみ(心不全症状)を伴うようになったりする心室性期外収縮があります。

心室性期外収縮は基礎心疾患がなく、頻度が少なければ放置しても問題ありません。

放置すると短時間で死亡してしまう危険性の高い致死的不整脈心室頻拍心室細動があります。

一部に血液循環が保たれる心室頻拍の持続がありますが、長時間持続すると心機能低下を起こし息切れやむくみ(心不全症状)を起こしてしまいます。

治療

心室性不整脈は電解質異常(特に低カリウム血症、低マグネシウム血症)、甲状腺疾患、低酸素血症、薬物の副作用などで起こることがあり、原因の特定・治療が優先されます。

心室性期外収縮は基礎心疾患がなく、頻度が少なければ放置しても問題ありませんが、動悸症状が強かったり、出現頻度が多くて心機能に影響を及ぼしたりしている場合には薬物治療を行います。薬物でコントロールが困難な場合にはカテーテルアブレーションを考慮することになります。

一方で、致死的不整脈が発生し、血液循環が保てない場合には、1分1秒を争って治療しなければ命にかかわりますので、すぐに電気的除細動を必要とします。植込型除細動器(ICD)の移植を行うことで、再発時の救命を行います。しかし、ICDでの治療は頻拍を停止させる対症療法ですので、再発予防として、基礎心疾患に対する薬物治療抗不整脈薬の継続が必要です。頻回に不整脈を繰り返す場合などには、発作の頻度を減らすためカテーテルアブレーションを考慮します。

また、一部の特発性心室頻拍に対しては、カテーテルアブレーションの有効性と長期効果が示されており、ICDは必要とせず、カテーテルアブレーションを行います。

植込み型除細動器(ICD)の適応

一次予防: 非持続性心室頻拍がある場合。
失神はあるが心電図記録がなく、致死的不整脈の関与が強く疑われる場合。
低心機能(左室駆出率 35% 以下)のために突然死のリスクが高い場合。
二次予防: 過去に心肺停止、持続性心室頻拍や心室細動が記録されている場合。
カテーテルアブレーション

外科的な手術では胸を開き、直接心臓の異常な部位を治療することになりますが、大手術になるため、患者様の受ける負担はとても大きなものになります。

そこで胸を切らなくてもよい、カテーテルアブレーション治療が開発されました。3Dマッピングシステム(CARTOシステム)も進歩し、安全性を補っています。

アブレーションとは、「取り除くこと」という意味で、カテーテルアブレーションとは、カテーテルの先端から高周波電流を流して、接している生体組織を小さく焼き切ることを意味します。治療としては不整脈の原因となる異常な電気信号のある部位を焼灼することになります。異常な部位をすべて焼灼できた、もしくは異常な電気信号伝達を防ぐ焼灼ができたと思われるまで、焼灼を何度か繰り返すことになります。

また、やけどが治ったり、壁の厚みなどで、結果として1回の治療では異常な部位を完全に焼灼できなかった場合、後日再びカテーテルアブレーション治療を繰り返すこともあります。

カテーテルアブレーションの対象となる疾患
  • 流出路起源心室頻拍・心室性期外収縮: 心室性不整脈で最も多くみられる不整脈でほとんどが右室流出路起源ですが、時に右室入口部や左室流出路や大動脈弁上部、稀に心外膜側から発生するものがあります。異常自動能の亢進が原因と考えられます。心室性期外収縮を治療室で確認し、起源を同定して、同部位に焼灼し治療を行います。
  • 特発性心室頻拍(ベラパミル感受性心室頻拍): 右脚ブロック、左軸偏位を示すベラパミル投与で停止する心室頻拍で、通常は左脚講師領域のリエントリが原因となっています。カテーテルアブレーションの有効性と長期効果が示されています。
    以下の疾患では基礎心疾患の治療を優先しICD移植の適応があれば行います。頻回に不整脈を繰り返す場合などには、発作の頻度を減らすためカテーテルアブレーションを考慮します。
  • 冠動脈疾患: 心筋梗塞発症の48時間以降に出現する持続性心室頻拍や心室細動は、その後も再発する可能性が高くなります。
  • 非虚血性拡張型心筋症: 不整脈の起源が、心筋の深い層や心外膜側に存在することが多い進行性の疾患で、不整脈を繰り返す可能性があります。
  • 肥大型心筋症: 特に40歳以下で突然死の原因となる心筋疾患で、運動時の突然死として発症することが多く、持続性心室頻拍や心室細動の既往があれば、再発が多くなります。
  • 催不整脈性右室心筋症: 右室心筋の線維が脂肪変性して、興奮の伝導遅延を生じて心室性不整脈の原因となる疾患です。若年における心臓突然死の主要な疾患で、失神、著明な右室拡大、左室収縮能低下を有する場合は一次予防が必要となります。
  • ブルガダ症候群: 右側胸部誘導において特徴的な心電図変化(B)を伴い、時に心室細動となります。心室細動の既往、自然停止する多型性心室頻拍、突然死の家族歴、家族の心電図変化、電気生理検査で誘発される心室細動、失神または夜間の臨終様呼吸(止まりそうなあえぎ呼吸)のいずれかを満たす場合が診断となります。
  • J波症候群: 心室波形の終末の特異的な波形(J波)が心室細動と密接に関係していることが、最近の研究で明らかとなっています。
  • 心サルコイドーシス: 全身の臓器に炎症性の病変を生じて障害を起こす原因不明の疾患で、心臓にも炎症性の病変ができて心臓の働きを邪魔して致死的不整脈や心機能低下(同期不全)を引き起こします。
  • カテコラミン誘発性多形性心室頻拍: 運動したり興奮したりするときに失神発作を起こすことが多く、原因遺伝子(心臓リアノジン受容体遺伝子:RyR2)が報告されています。突然死のリスクが高い疾患ですが、有効な薬剤(β遮断薬)があります。心停止したり、薬剤でのコントロールが困難な場合はICD移植、カテーテルアブレーションを考慮します。
カテーテルアブレーションの対象とならない疾患
  • 先天性QT延長症候群: 心電図上のQT間隔延長、異常T波、多型性心室頻拍、失神あるいは突然死を特徴とする疾患群です。薬物治療に抵抗性を示し、再発性の失神や突然死蘇生がある場合、あるいは心臓突然死の家族歴がある場合に植込み型除細動器(ICD)の適応となりますが、現時点ではアブレーション治療の適応ではありません。
カテーテルアブレーションの実際

1) 足の付け根と首のところを消毒します。静脈麻酔を開始します。局所麻酔をして、カテーテルを入れるためのシースを血管に挿入します。
2) 必要に応じて血管造影検査などを行います。
3) 不整脈を誘発するために、右心室に電極カテーテルをシースから心臓内に配置します。
4) 心腔内エコーとカテーテルでコンピュータ上に心臓の傷み具合の分布図を構築します。
5) 左側の治療が必要な場合には、心腔内エコーを見ながら、心房間に小さな穴を開けて足から続く長いシースを左心房に入れ(※心房中隔穿刺法)左室へ到達する方法と、大動脈を逆行性に左室へ到達する方法とあります。
6) 不整脈の原因となっている部位に焼灼治療を行います。
7) 静脈麻酔を終了し、カテーテルとシースを抜いて手で押さえて止血します。沈子で圧迫して病棟へ戻ります。
8) 病棟では6-8時間の安静が必要です。

手術時間は2-5時間です。

カテーテルは、足の付け根や首などの太い静脈から入れて、右心房に到達します。左心房から治療するためには右心房と左心房の間の壁(心房中隔)に穴を開けて、カテーテルを通します。これを心房中隔穿刺法といいます。穴を開けることによる痛みはなく、治療後2-3か月で自然に閉鎖することがほとんどです。