鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学

X (旧Twitter)

Department of Cardiovascular Medicine and Hypertension, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University

診療について

医療関係者様へ:当科が専門的に行っている疾患・治療

医療関係者様向け

心室頻拍のアブレーション

心室性不整脈

心室性不整脈は起源をヒス束分岐部より心室側で、単発の期外収縮、連発(3連発以上)しても30秒以内で自然停止する非持続性心室頻拍、および30秒以上持続する又は30秒以内でも停止処置を要する持続性心室頻拍、加えて心室細動からなります。不整脈死の原因は持続性心室頻拍および心室細動が主となります。

心室頻拍の治療

心室頻拍には、器質的心疾患のない特発性心室頻拍と、心筋梗塞などや心筋症などの器質的心疾患に伴う心室頻拍があります。心室頻拍の治療には以下の方法があります。

1.薬物治療
2.植込型除細動器(ICD)
3.カテーテルアブレーション

以前は心室頻拍に対する薬物治療やICD治療は姑息的治療であり、防戦一方の感がありましたが、最近の医用工学の進歩は目覚ましく、3次元マッピングシステム(CARTO3)やイリゲーション(灌流型)カテーテルを用いたカテーテルアブレーションにより攻めに転じる変換点が来たと感じています。もちろん、薬物治療やICDを否定するものではなく、様々な組み合わせによる治療が行える時代が来たと思っています。ここではカテーテルアブレーション治療について説明します。

心室頻拍に対するカテーテルアブレーション

特発性心室頻拍の場合、薬物治療が有効なベラパミル感受性心室頻拍に対しても、カテーテルアブレーションにより根治が期待でき、不整脈による突然の症状(動悸・気分不良など)や不安から解放でき、薬物治療を中止できるようになります。

また、Brugada症候群に対してもICDのバックアップが不要とまではまだ言い切れませんが、カテーテルアブレーションによる治療(Nademanee K, et al. Circulation. 2011;123:1270-1279.)も行われるようになり期待されています。

一方で従来は心筋梗塞や肥大型心筋症/拡張型心筋症などの器質的心疾患に伴う心室頻拍に対するカテーテルアブレーションは困難とされ、薬物治療に加え植込型除細動器(ICD)で起こった心室頻拍を止めるのが確実な方法とされています。しかし、繰り返すICD作動が生命予後を悪化させるとの報告(Henry W, et al. Heart Rhythm. 2007;4:1395-1402. a MADIT-II substudy)があります。

そして、二次予防(心肺停止後の再発予防)目的にICD移植されている心筋梗塞後の心室頻拍に対して予防的にカテーテルアブレーションを行うとICDの作動が減ったと報告(Reddy VY, et al. N Eng J M. 2007;357:2657-2665.)されています。

我々は器質的心疾患に伴い心室頻拍を繰り返す症例にもカテーテルアブレーションで不整脈発作自体を起こりにくくする治療を選択しています。

カテーテルアブレーション時の標的

心室頻拍のアブレーションの際に、心室頻拍を誘発し、興奮伝導マッピングやエントレイメントを行い頻拍中の回路を同定して焼灼が行われてきましたが、器質的心疾患のある症例では、心室頻拍中に血行動態が破綻したり、心室頻拍の出現停止を繰り返したりする場合が多々あり、治療の困難さが増します。

器質的心疾患を伴う心室頻拍において、瘢痕に関連した心室頻拍にLAVAs (local abnormal ventricular activities)を認め、このLAVAsの消失が良好な治療成績と関連している報告(Pierre Jais, et al. Circulation. 2012;125:2184-2196.) があります。

当院での心室頻拍のカテーテルアブレーション

重症の心不全患者さんが年齢を重ね、心室性不整脈の合併が増えています。それに伴い、カテーテルアブレーションを必要とする患者さんもコンスタントに治療させていただいております。

実際の入院治療の流れ

入院いただいた患者さんには、基礎心疾患の評価を行い、心不全の悪化に伴って心室頻拍が出現している場合には、心不全の評価・治療から行います。

カテーテルアブレーションの術時間は3-4時間前後で、静脈麻酔を用いて行います。局所麻酔下に鼠径部より動静脈の血管穿刺を行い心臓にアプローチします。左室に不整脈起源があれば、経静脈的に心臓まで到達し心房中隔穿刺を行い経左房的にアプローチする方法と大動脈を逆行性にアプローチする方法があり、その両方またはいずれかを用います。右室には経静脈的にアプローチします。

CARTO3 (3次元マッピングシステム) を用いて、コンピューター内にCARTOSOUND (心腔内エコー) で上行大動脈・左室・右室を構築し、術前に3D-心臓CTを行っている症例ではmarge (重ね合わせ) を行います。洞調律下に心室をマッピングし、基質マッピングを作ります。局所心内電位LAVAs (local abnormal ventricular activities)を指標に焼灼部位を決定します。ペースマッピングや心室頻拍出現時の局所心室興奮波の先行度も指標としています。

エンドポイントは、初期誘発より心室頻拍が誘発されにくくなれば終了としていますが、除細動3回で終了としています。

術後の合併症の有無の確認、特に心不全の増悪に留意が必要となります。

無事に退院となれば、紹介医師への情報提供と共に、引き続きの加療を行って頂くことになり、再発の際には再度ご相談いただいております。

当科での治療症例

2012年4月から2014年3月の間に当院で行った器質的心疾患に伴う心室頻拍に対するカテーテルアブレーション(15例)の内訳は、虚血性心筋症(ICM)が5例 (65±8歳)、拡張型心筋症(DCM)が6例 (63±7歳)、心サルコイドーシス(心サ病)が2例 (61±2歳)、催不整脈性右室心筋症(ARVD)が1例 (55歳)、ファロー四徴症(TOF)術後が1例 (38歳)でした。

以下に示すようなLAVAsを認める部位での焼灼で有効通電を得て終了しています。

心筋の厚みがあったり、心外側に心室頻拍の起源を有していたりと、有効通電を得ても、すべての症例でLAVAsの消失を得ることはありません。器質的心疾患に伴う心室頻拍に対する治療の場合は、複数回の治療を念頭に置かねばなりません。特に心サルコイドーシスのように基礎心疾患が進行性であれば、再発もまれではありません。

今後の展望

我々も根気強く治療・研究を続けており、新たな発見や医用工学の進歩より、患者さんの生命予後改善のためにお役立てできれば幸いです。