鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学

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Department of Cardiovascular Medicine and Hypertension, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University

診療について

患者様へ:当科が専門的に行っている疾患・治療

患者様向け

心ファブリー病

1.心Fabry病とは

Fabry病は、全身諸臓器に障害を呈する遺伝性疾患です。そのFabry病の中で心臓にだけ症状が認められる患者さんを心Fabry病と呼んでいます。Fabry病は、加水分解酵素の一つであるα-galactosidase A酵素の活性低下や欠損により幼少期より症状を呈しますが、心Fabry病では中年期以降に症状を呈することが多いです。

当教室では、心Fabry病が心臓の肥大している患者の中に3%という頻度で見出されたことを1995年に報告し、それ以降、心Fabry病の疫学、診断、病態、治療に関する臨床的、基礎的研究を行っています。

2.Fabry病・心Fabry病の歴史的背景

Fabry病は、1898年にドイツの皮膚科医Fabryおよびイギリスの皮膚科医Andersonが、それぞれ別々に男性患者1例ずつを報告しました。1963年、Fabry病はスフィンゴ糖脂質が臓器へ蓄積することにより発症することがわかり、1965年には、本症はX染色体性の遺伝形式をとることが報告されました。1970年、本症の欠損酵素がα-galactosidaseであることがわかり、α-galactosidaseにはα-galactosidase AおよびBの2種類が存在し、本症はα-galactosidase Aの欠損によるものであることが明らかとなりました。1989年、ヒトα-galactosidase A遺伝子が同定されました。

Fabry病では、α-galactosidase A活性の遺伝的欠損により、全身の臓器に分解されるべき基質が進行性に蓄積し、心臓をはじめとした多臓器に障害が生じます。1995年、上記のように、心障害のみを呈する非典型的Fabry病患者が、心肥大を有する日本人男性の中に3%という頻度で検出されたことを報告し、「心Fabry病」という疾患概念を提唱しました。

3.疫学

Fabry病は、稀な疾患と考えられており、本邦における頻度は不明であるが、欧米では40,000人~117,000人に1人と推測されています。

これに対し、心Fabry病は、心肥大のある日本人男性患者の3%、肥大型心筋症と診断されたイギリス人男性患者の4%に存在したと報告されています。このような結果が多くの国から報告され、心Fabry病は、原因不明の心肥大を認める患者の中に数%の確率で存在することが推測されています。

4.診断

心Fabry病・Fabry病は、先天性スフィンゴ糖脂質代謝異常症とよばれ、診断のためには臨床症状の評価に加え、本疾患に特異的な代謝異常(酵素活性の低下や基質の蓄積)を証明することが必要となります。

(1)自覚症状

心Fabry病では、症状は中高年以降に出現することが多く、病期の進行とともに心不全症状(息切れや浮腫みなど)、不整脈による症状など生じます。一方、Fabry病では、心症状に加え、手足の痛み、被角血管腫という赤い皮疹、汗をかきにくい、下痢や便秘を繰り返す、難聴、脳血管障害、腎障害など多岐にわたります。

(2)心臓検査所見

心エコー図で、心臓の肥大を認めます。肥大は通常進行性です。症状が進むと限局した菲薄化が認められることもあります。当初は心臓の収縮力は保たれていますが、徐々に悪化し心不全や不整脈などが認められるようになります。

心電図では、様々な異常を示し、ペースメーカーが必要となる不整脈を認めることもあります。

(3)血液、尿生化学検査

男性では、採血で測定されるα-galactosidase A活性の低下を認めます。また、血漿、尿、細胞、組織などにおいてα-galactosidase Aの基質が蓄積しているため、基質の値が高くなります。

(4)遺伝子解析

α-galactosidase A遺伝子はX染色体に存在するため、心Fabry病・Fabry病はX染色体性の遺伝形式をとります。Fabry病では、これまでに800種類を越える多様なα-galactosidase A遺伝子の変異が報告されています。この遺伝子変異により、Fabry病であるのか心Fabry病であるのかわかることもあります。

(5)女性保因者の診断

α-galactosidase A遺伝子はX染色体に存在します。男性患者(ヘミ接合体)では、個々の細胞にX染色体が1本しか存在しないため、その診断は比較的容易であります。しかし、女性保因者(ヘテロ接合体)では、個々の細胞にX染色体が2本存在するので診断が簡単ではありません。女性患者の場合、採血でのα-galactosidase A活性は、低値を示すものから正常域のものまで多様であり、酵素診断が困難です。このため、女性の診断は、生化学的診断、病理診断、遺伝子診断、家族歴を組み合わせて行う必要があります。

5.治療

Fabry病では、対症療法が長く行われていたが、低下しているα-galactosidase A酵素を補充する酵素補充療法が開発され、2004年4月から一般臨床での使用が可能となっています。

この酵素補充療法は、2週間に1回点滴でα-galactosidase Aを投与します。腎臓や心臓に対する有用性がこれまで報告されています。さらに、心病変に関しては、比較的初期の病変に対する有用性が報告されているので早期の治療が必要と考えられています。

現在、当教室では、本症に対する酵素補充療法以外の根本的治療法として、遺伝子治療などの研究も行っています。