鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学

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Department of Cardiovascular Medicine and Hypertension, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University

診療について

医療関係者様へ:当科が専門的に行っている疾患・治療

医療関係者様向け

上室性不整脈のアブレーション

上室性不整脈のカテーテルアブレーション

①心房細動のカテーテルアブレーションについて

心房細動は年齢とともに増加し、70歳を越えると特に男性では100人に3-5人もおられます。現在全国に70万人、近い将来には100万の数に達すると言われ日常診療で最もよく見られる不整脈の一つです。心房細動は動悸・息切れなどの症状の原因ともなりますが、症状のほとんどない方も見受けられます。では症状がなければ放置してもよろしいのでしょうか?国民栄誉賞を受けられた、元巨人軍の長嶋茂雄さんが脳梗塞になられたことはよく知られていますが、その原因は発作性心房細動です。そのため心房細動は不整脈そのものの症状よりも脳梗塞の原因となることがより重要です。

心房細動に対しては、メイズ手術という心臓をとめて行う外科手術が弁膜症の手術時などに行われていましたが、それ以外のほとんどの患者様に対しては飲み薬、特に血液を強力にさらさらにするワーファリンなどの抗凝固薬をずっと飲んで頂くことが一般的です。ただ抗凝固薬を飲まれていながら、脳梗塞になられることも少なくなく、また脳出血の頻度も増えるため、根本的な治療が期待されていました。そこで、心臓の左心房についている肺静脈が心房細動発作のおこるきっかけの心房性期外収縮の発生の原因の90%以上であることが発表されてから心房細動のカテーテルアブレーションは急速に発展し、現在では肺静脈隔離術という、肺静脈を左心房から電気的に隔離する方法が心房細動アブレーションの礎石と言われるほどとなりました。

とはいえ、カテーテルアブレーション1回での成功率は発作性心房細動で60~80%、持続性心房細動で50%、長期持続性心房細動で30%と複数回の治療が必要な方が多くおられることが課題です。

また患者様には術前・術後を見て頂くかかりつけの先生が重要ですので、まずはかかりつけの先生にご相談頂きますようよろしくお願いいたします。

治療の対象者

症状の強い発作性心房細動の患者様で、心房細動がずっと持続していないような患者様が良い適応です。心房細動が持続してしまうと、左心房が拡大して傷んでしまい、ますます心房細動が続きやすい状態となってしまい、心房性期外収縮が出てくる肺静脈を隔離するだけでは心房細動の根治が難しくなるためです。

また、心房細動が持続していても、若い患者様は抗凝固薬を一生飲み続けることを考えますとカテーテルアブレーションを受けて頂くのも良いかと考えられます。

心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の流れ
  1. 外来に来られるのは数年前から心房細動があり、抗不整脈薬・抗凝固薬を内服しても、毎月のように発作があるという方や、今までなかったのに、今回の健診で初めて心房細動を指摘され、症状はひどくはないのですが、薬をずっと飲むのも嫌だし、脳梗塞になりたくないからということでご紹介頂く方が一般的です。
  2. 受診時に1回の成功率(発作性60~80%、1年未満の持続性50%、1年以上の持続性30%)、合併症(脳梗塞・出血など)、入院期間(4-5日)、治療時間(3~4時間程度、静脈麻酔で意識はほとんどない状態での治療です)などをお話して、治療をご希望されれば入院予約をお取りします。入院待ちは平均1ヵ月程度です。
  3. 入院後に、経食道エコー(心臓内の血栓チェック)、CT検査をさせて頂き、入院翌日か、翌々日にカテーテル治療を行ないます。ほぼ1日絶食ですが、午前の治療なら夕方から、午後でも翌日にはトイレに行ける状態となります。治療翌日にエコーなどをチェックし、翌々日以降退院可能です。
  4. 3ヵ月後、6ヵ月後に外来で経過をみさせて頂きます。術後3ヵ月までは発作が残ることが多いですが、術後3~6ヵ月で消失することが多いです。6ヵ月後以降に心房細動が残っていれば、再治療をご相談させていただきます。抗不整脈薬を飲まずに3ヵ月以上、心房細動がなければ抗凝固薬も中止可能となります(脳梗塞のリスクが低い方の場合です)。
  5. その後も長い年月での再発はまれながらあり、毎日脈だけはチェックして頂いたほうが良いでしょう。

②発作性上室性頻拍のカテーテルアブレーションについて

発作性上室性頻拍は、心臓に何も病気がない方にも起こる不整脈で、心房細動とは違い、年齢とともに増えてくるということもありません。小学生の頃から発作があるという方も多いです。いわゆる健康な方に起こる不整脈で、突然始まって突然停止する脈の乱れのない頻拍です。心拍数が通常の2~3倍(150~200回/分)程度になりますので、ドキドキが非常に強いのが特徴ですが、長く続いても心不全になってしまうことはほとんどない不整脈です。

治療としては、発作が起こった時に脈を遅くする薬を頓服して頂いたり、それでも発作が止まらない場合には病院で点滴注射をしたりして対応します。発作がたびたび起こる場合には、発作予防の薬を定期的に内服して頂いたりしますが、基本的に薬での治療は根本的な治療ではありません。

薬でのコントロールが難しい場合や、患者様が希望される場合にはカテーテルアブレーションが行われます。カテーテルアブレーションは根治を目指した治療になります。

発作性上室性頻拍に対するカテーテルアブレーションの成功率は85~95%程度と高く、再発はほとんどが6ヵ月以内にみられますので、アブレーション6ヵ月後まで発作がなければ、根治と考えて頂いて構いません。

治療の対象者

発作時の症状が強い患者様が良い適応です。パイロットや公共交通機関の運転手、高所で作業をされる方など職業によっては、その高い成功率から症状がなくてもアブレーションの適応と考えてよいと思います。

発作性上室性頻拍に対するカテーテルアブレーション治療の流れ
  1. 頻拍発作を繰り返しておられる方、心電図で発作性上室性頻拍を起こしやすい特徴を持っておられる方(「WPW症候群」という病名がついています)などをご紹介頂くことが一般的です。
  2. 受診時に1回の成功率(85~95%程度)、合併症(房室ブロック・出血など)、入院期間(4-5日)、治療時間(2~3時間程度、静脈麻酔で意識はほとんどない状態での治療です)などをお話して、治療をご希望されれば入院予約をお取りします。入院待ちは平均1ヵ月程度です。
  3. 入院後に、採血や心電図、心エコー等の術前検査をさせて頂き、入院翌日にカテーテル治療を行ないます。午前の治療の方は朝食が絶食となりますが、昼からは摂取して頂くことが可能です。午後の治療の方は、昼食が絶食で、夕食から摂取可能です。午前の治療なら夕方から、午後の治療でも翌日にはトイレに行ける状態となります。治療翌日にエコーなどをチェックし、翌々日以降退院可能です。
  4. 心房細動とは違って、アブレーション後に当院外来を定期的に受診して頂く必要はありません。かかりつけの病院への通院を続けて頂き、万が一動悸発作があった場合には、すぐにかかりつけの病院を受診して心電図を受けて頂くことをおすすめします。心電図にて再発が疑われる場合には、再治療をご相談させて頂きます。
  5. アブレーション後6ヵ月間発作がなければ、根治したと考えて頂いて構いません。非常に稀ではありますが、長い年月での再発や別な不整脈の出現などがあり、毎日脈だけはチェックして頂いたほうが良いでしょう。