研究:研究グループ
高血圧・動脈硬化グループ
2023年 高血圧・動脈硬化グループのあゆみ
赤﨑雄一,佐々木雄一(緩和ケアセンター),迫田 隆,上坊翔太, 池田義之
高血圧チーム
高血圧チームは,臨床面においては,治療抵抗性高血圧の患者様を中心として,2次性高血圧(原発性アルドステロン症,腎血管性高血圧,閉塞性睡眠時無呼吸症候群)のルールアウトやコントロールを行っていますが,外来では,妊娠高血圧症候群,高血圧合併妊娠,などの患者様を御紹介いただき並進することも増えています。分子標的薬(レンバチニブなど)使用症例では,高血圧発症リスクが高いため,コントロール不良高血圧として紹介が増えています。また急性大動脈解離症例なども担当しますが,近年,孤発性腹腔動脈解離や孤発性上腸間膜動脈解離なども時折救急搬送され,概ね良好な経過になることが多いですが,原因は何なのか非常に興味が湧くものの,なかなか明確には診断できないところが残念なところです。解離症例のMarfan 症候群患者の管理に加え,診断が明確でない患者さんについて遺伝子診断で確定した症例もあり,その患者さんは現時点で解離は発症していないので,今後の管理に有意義と感じた一例を経験しました。今年度では,昨年から保険収載された家族性高コレステロール血症の患者さんの遺伝子診断も開始し,少しずつですが相談が増えております。これからも高血圧や脂質異常症の患者さんを中心に,循環器疾患の予防・管理にこれからも寄与できたらと思います。
研究については,迫田先生が大学院4年生で,厚生連データを活用しながら,高血圧患者におけるTyG(トリグリセリド・グルコースインデックス)と慢性腎臓病の関係について論文がアクセプトされ,大変うれしい報告ができました。現在学位審査の準備中です。柴田先生は,腫瘍循環器の立場から,抗腫瘍薬による高血圧の合併と疾病予後の関係について研究をしており,大変興味深く,今後の発展が期待されます。
毎年,高血圧とは直接関係ありませんが,我々グループの担当業務についても報告させていただいています。心筋シンチについては,迫田先生と上坊先生が3年目の先生と一緒に,負荷を行っていただいています。読影は引き続き木原浩一先生や放射線科の先生と赤﨑で行っております。最近は,虚血のみではなく,アミロイドーシス(ATTR)診断目的のTc-PYP シンチも増えています。教育面においては,当科の内科専門医制度の取りまとめを引き続き担当させていただいております。内科専門医取得に必要な内科救急・ICLS 講習会(JMECC)のインストラクターは,入來先生や毛利先生と赤﨑で頑張ってきましたが,赤尾先生,内山先生にも参加していただいています。今後も仲間になってくださる先生を募集します。インストラクターをすることで内科専門医更新単位も取得でき,他科含めた内科救急蘇生についても最新知識のブラッシュアップができ大変有意義だと感じます。今後も,多くの関連病院の先生には,若手の先生の内科専門医,循環器専門医の育成に,今後もご協力いただけたらと思います。
引き続き,鹿児島の循環器・内科診療の発展のために,精進していきたいと思っております。御協力・御指導よろしくお願いいたします。
文責:赤﨑雄一
動脈硬化・老化研究チーム
現在大学院生の上坊翔太先生と私池田義之の2名で基礎研究を行っています。
『心血管疾患や老化の分子機序を解明し新規治療法開発を目指す』ことを目標に,『ミトコンドリアの質を維持する為の細胞内機構ミトコンドリアダイナミクス及びマイトファジー(異常ミトコンドリア選択的オートファジー)』を主たるターゲットとして研究しています。昨年に引き続き上坊先生(2023年度大学院2年生)が『閉経に伴うサルコペニアの分子機序と治療法開発』研究に従事し,本年度は日本高血圧学会総会プレナリーセッションはじめ様々な学会で発表されました。
HFpEF の増加は本邦の超高齢社会に伴う心不全パンデミックの大きな要因です。心不全は心臓のみならず血管障害やサルコペニアなども関係する全身性の症候である為,治療では全身の病因に対する包括的アプローチが必要です。これまで我々の研究室では,『女性における閉経後や生活習慣病が血管障害を招く分子機序に細胞内メンブレントラフィッキングRab9依存性に生じるマイトファジーが重要な役割を果たしている』ことを明らかにしてきましたが,上坊先生の骨格筋に関する研究により,「我々がターゲットとするメカニズムが,HFpEF の有効かつ包括的治療介入ポイントになる」という従来から掲げてきた仮説の裏付けを更に得ることができました。
旧第一内科から続く基礎研究室は2014年に一度消滅しましたが2016年に当時大学院生だった佐々木雄一先生と共に大学プレハブ内に心臓血管・高血圧内科学基礎研究室を立ち上げさせていただいて以来蓄積された知見を基に,『閉経女性がリスクとなるHFpEF の分子機序解明および治療法開発』をテーマとし2023年度科研基盤(B)(2023~2027年度,助成金1,742万円)を新規獲得することができました。
極めて少ない人数で構成された研究室ながらこれまで当科から『ミトコンドリアダイナミクス・マイトファジー』を直接ターゲットとして獲得した科研費だけでも,研究活動スタート支援2件,若手研究3件,基盤(C)5件,基盤(B)1件,助成総額5,434万円となりましたが,これも今まで研究室で尽力いただいた佐々木雄一先生(現在緩和ケアセンター助教),内門義博先生(現在北薩病院),ラボランチンの方々や,現在大学院生として当該研究を実施されている上坊翔太先生の努力の結晶と心から感謝しています。
この科研基盤B 研究は上坊先生の大学院学位研究になりますが,2023年度末に私池田が医局関連病院へ出向し部長職に従事しながら鹿児島大学心臓血管・高血圧内科客員として研究の指導も続けることになるため,マンパワーや時間的問題から研究の大幅な計画変更は避けられません。それでも上述の如くこれまで研究に従事いただいた方々の歴史が基盤となった研究ですので,大石教授をはじめとした医局の皆様から頂いたご助力やご退官後も常に公私にわたりご支援頂いている多くの旧第一内科OB 先生方からの恩恵その他ご支援いただいた全ての方々に対する感謝の気持ちをもって,当該研究を益々推進して上坊先生には当初の予定通り学位取得して頂く所存です。皆さまからのご支援ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。
文責:池田義之