鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学

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Department of Cardiovascular Medicine and Hypertension, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University

講座について

教授ご挨拶

教授ご挨拶(バックナンバー)

2022年1月掲載

postコロナの新たな挑戦 -低侵襲治療と研究促進で地域と未来に貢献-
鹿児島大学 心臓血管・高血圧内科学
心血管病予防分析学
  教授 大石 充

あけましておめでとうございます。新型コロナウイルス感染症に翻弄された2年間でしたが、オミクロン株という新たな敵が出現して、将来の見通しがまた不透明となってきました。しかしながら、我々はpostコロナ・withコロナとして新しい未来を思い浮かべながら前に進んでいく必要があると思っております。

心血管病低侵襲治療センター設立

2021年10月1日に心血管病低侵襲治療センター(minimally invasive therapy for cardiovascular diseases center; 略称:MITセンター)を鹿児島大学病院に開設しました。基本理念として『すべての心血管病患者さんに低侵襲で社会復帰の早い治療を含めた最適な治療を提供し、質の高いQOLおよび健康寿命の延伸を享受していただく。』を掲げており、『心血管病に対するすべてのカテーテル治療と低侵襲手術を行うセンター』をコンセプトとしています。私がセンター長を拝命し、心臓血管外科部門科長曽我欣治教授に副センター長に御就任いただき、我々二診療科のみならず、小児科・脳神経外科・脳神経内科・麻酔科・放射線科・手術室・看護部・ME科など多くの部門が連携して運営されています。通常のPCIやEVT以外にセンターが扱う治療(*は鹿児島県では鹿児島大学病院のみが認可済の治療法)は以下の通りです。

TAVI(経皮的大動脈弁留置術)
MitraClip®(経皮的僧帽弁クリップ術)*
Amplatzer™ Septal Occluder(ASD閉鎖デバイス)*
Amplatzer™ PFO Occluder(卵円孔閉鎖デバイス)*
WATCHMAN™(左心耳閉鎖デバイス)*
MICS(小切開低侵襲心臓手術)
TEVAR・EVAR(胸部・腹部大動脈流ステントグラフト内挿術)

8年前の鹿児島大学赴任当時、心房中隔欠損による重症肺高血圧の治療として久留米大学でAmplatzer™ Septal Occluderを、Gittleman症候群を合併した重症僧帽弁閉鎖不全症に対して済生会熊本病院でMitraClip®をしていただいたりと、鹿児島県民の皆様に近県にわざわざ低侵襲治療を受けに行っていただくこととなり、不便と多大なご負担を強いていたばかりか、場合によっては治療そのものを断念せざるを得ない状況となってしまっていることに忸怩たる思いを抱いておりました。鹿児島県唯一の大学病院として“鹿児島県医療の最後の砦”の役割を担っている我々がこの状況を打開しなければならないと考えて、5‐6年前より準備をしてきました。様々なハードルを医局員の頑張りで乗り越えることができて、現在行われているほとんどの上記カテーテル治療の施設基準を取得しました。また全国でも有数の心臓病ハイボリュームセンターである小倉記念病院で数多くの小切開低侵襲心臓手術(MICS)を手掛けられた曽我欣治心臓血管外科部長が2021年4月より鹿児島大学心臓血管外科学教授として赴任されました。以前から行われていた大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術と合わせて内科・外科ともに低侵襲治療を集約的に行う体制が整いました。今後は鹿児島県の健康回復・維持のために鋭意努力してまいりたいと考えております。

循環器病対策基本法とOK-ACSレジストリ

2018年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(いわゆる循環器病対策基本法)」が成立し、同法に基づいた循環器病対策推進基本計画が2020年10月に閣議決定されました。これを受けて鹿児島県においても鹿児島県循環器病対策推進協議会が発足して、私が会長を務めさせていただいております。予防はもとより、急性期から回復期・慢性期に至るまでシームレスな医療体制を構築することが求められており、急性冠症候群、心不全、解離性大動脈瘤が三大代表疾患とされています。各々に対策を立てておりますが、中でも急性冠症候群はOK-ACSレジストリ(Optimal therapy for all Kagoshima Acute Coronary Syndrome registry)という登録研究を開始することとなりました。一内科および二内科の枠を超えただけでなく、生協病院や今まで大学と距離をおいていた徳洲会グループや米盛病院など、本当の意味での“All Kagoshima”体制でのレジストリは全国でも珍しいのではないかと思っております。鹿児島県はACSの死亡率の高いことが統計的に示されており、また離島や僻地と鹿児島市内の死亡率には倍以上の開きがあり、地域格差も大きな問題となっております。OK-ACSが軸となって鹿児島の地域と未来に少しでも貢献できればと思っています。

研究の推進はまだまだ道半ば

新研修医制度や新専門医制度発足以来、県内でも多くの病院が豊富な臨床経験を背景として卒後教育にも力を入れており、大学病院の立ち位置が非常に厳しくなってきていると感じています。卒前教育は大学ならではではありますが、研究も大学の大きな使命の一つです。その使命が果たされているかどうかを調べてみました。このグラフは私が赴任後の論文数であり、2013年は鄭前教授のご指導のものを参考値として取り入れさせていただきました。私の大阪時代のデータを用いた論文や学会からのステートメントなどで名前が入っているだけのもの、CommentaryやEditorialなどのletterに近いものなどはすべて除いてあります。就任後右肩上がりで研究成果は増えておりますが、近隣大学などと比べると見劣りするのが現状です。大学内だけでなく、関連病院を含めた全体での底上げが大切であり、『常に疑問を感じ、解決し、形にする』という「研究文化」を植え付けて花開かせることが私の残された仕事かもしれません。

世間は新型コロナ禍でざわついておりますが、我々の目の前には心臓病や循環器疾患で困っている方々がたくさんいらっしゃいます。心血管病低侵襲治療センターや循環器対策基本法という追い風もあり、研究と臨床にまい進することで地域と未来に貢献できるような医局に発展させなければならないと意を強くしております。