教授ご挨拶
教授ご挨拶(バックナンバー)
2021年1月掲載
「新春あけましておめでとうございます」と言いたいところではあるが、新型コロナウイルス第三波の真っただ中にいて、医療体制の圧迫が現実となってきた現在では、決しておめでたいという状況ではない。「2021年3月がちょうど任期半ばの折り返しだから、前半の反省と後半への意気込みを年報の巻頭言に書こう!」と昨年の今頃はちょっと熱くなっていた。しかし新型コロナウイルスが襲来し、瞬く間に1年が過ぎ去ってしまったという感じである。8年前鹿児島に来た時には『鹿児島の循環器医療を変えるんだ!』と意気込んでいたのだが、あの当時考えていたことがどれくらいできたのであろうか?「鹿児島循環器医療の最後の砦として最先端医療を施して24時間365日稼動する」を就任初日に掲げて、少し波紋を広げたが、素晴しい医局員達がこれに答えてくれて、今では救急を診ることが当たり前になった。また、すべてではないけれどもTAVIやImpellaなど最先端医療も導入できた。一例一例丹念に診て診療上の疑問をとことん追求するというところまで達してはいないが、診療部門は循環器内科として及第点が与えられるのではないだろうか。就任後に各医師会にお邪魔して各グループヘッドと心臓血管内科の診療内容をプレゼンテーションさせていただき、数多くの患者さんをご紹介いただいた。新型コロナ禍での数多くのご紹介に敬意を表する意味で、BEST PARTNERSHIP賞(1年間で最も多くの患者さんをご紹介いただいた医療機関)を勝手に表彰させていただき、病病連携部門は慈愛会今村総合病院であり、病診連携部門は桜ケ丘内科胃腸科であった。私の赴任当時、いわゆる旧ナンバーリング内科の伝統が脈々と息づいており、大阪でも経験してきたことではあるが、大学病院に非常に近い医療機関であってもナンバーリング内科が違えば当科に紹介されないということを経験してきた。赴任して7年が過ぎ、旧二内科のご出身である桜ケ丘内科胃腸科が当科に最もご紹介いただいたことは、驚くとともに100点満点を与えたいと自画自賛をしている。
就任当初はMost Valuable Teacher賞やBest Coordinated Course賞などをいただいて教育部門もまずまずかと思いきや、過去の遺産が尽きてくるとその後は若干の尻すぼみ。心エコーハンズオンや心電図教室など医局員が様々な努力をしてくれて、入局者もコンスタントに増えていることも考えると後半に追試という感じだろうか。研究に関しては就任3年間で種を蒔いて、その後3年で育てて、7年目の今年から刈り取りを!と思っていたが、若干スケジュールが遅れている感じ。さらにCOVID-19旋風で、垂水研究・高血圧ゼロの街枕崎・健康アイランド種子島といった地域を巻き込んだ臨床研究は大きな方向転換を迫られている。一方で、念願であったAI技術を用いた健診ビッグデータ解析は様々な人のつながりで大きな前進ができて、早ければ今年中にも成果が得られそうである。喜ばしいことに関連病院からも臨床研究や症例報告の英文原著が報告されるようになり、赴任以来右肩上がりで英文論文数が増えてきている。研究部門は60点すれすれで合格と言えよう。
さて心臓血管・高血圧内科学教授としての後半戦はどう戦っていくのか?診療・研究・教育のすべてでwith corona時代として大きな方向転換が必要ではあるが、これは我々にとってむしろ喜ぶべき時代が到来したと考えている。8年前の我が教室員の印象は「質実剛健、勤勉、さすが薩摩隼人」であり、悪く言えば愚直で冒険心が足りないとも言える。また海外学会参加時の東京前泊や東京・大阪での会議が1日仕事になったりと、時間距離の長さに驚くとともに時間の無駄と感じた。with corona時代はZoomやWebexにより時間距離がゼロとなり鹿児島勤務の時間的ビハインドは消失した。このチャンスを生かさない手はない。日常診療をしながら学会に参加して勉強できる、ちょっとした合間に講演会で異分野の知識を入れることができる、講演料だけで著名な先生方の話を聴くことができる(海外からの招聘すら可能)、学生講義をAll Japanで組む、YouTubeで学生向けの教科書を作るのも面白いなぁなどなど妄想がどんどん膨らんで留まることがない。地域密着型臨床研究も新型コロナで参加型健診が困難であればICTとZoomやYouTubeを組み合わせたリモート健診への移行を推し進めて鹿児島モデルとして全国へ売り出すのも一手か?診療部門でも病診連携としてZoomやYouTubeも用いた「桜ヶ丘リモートカンファレンス」や「New桜ヶ丘循環器カンファレンス」を立ち上げるものいいし、就任後に行っていた鹿児島高血圧道場をYouTubeでもう一度リバイバルしてみるのも面白いかも。離島との時間的距離が一気にゼロになることによって、離島の循環器医療を目覚しく進歩させることも可能であると思っている。すべては新型コロナ禍という“チャンス”をどう生かすか、現代技術をどう生かすか、薩摩隼人の先見性と柔軟性が問われている。明治維新を成し遂げた県民が出来ないはずはない。心臓血管・高血圧内科学の後半戦はますます面白くなってきた。