教授ご挨拶
教授ご挨拶(バックナンバー)
2015年6月掲載
赴任して2年が過ぎましたが、患者さんの鹿児島弁に戸惑うことも多く、まだまだ「慣れていない」というのが正直なところだと感じています。しかしながら、4月からは副病院長を拝命することになり病院経営に深く関わることになりました。「大学病院の割には医師も医療スタッフも良く働くなぁ」というのが鹿児島へ赴任してきた時の第一印象だっただけに、経営改善をしなくてはいけない状況には少し驚きましたが、職員の薩摩魂に期待しながら粛々と改革を行なっていこうと思っております。
「教授」とは「教えを授ける」ポジションであります。昨年より医局会で5分から10分程度の「教授のミニレクチャ」を行なっております。降圧薬や抗血小板薬の理論と使い方から睡眠障害やtreatable dementiaまで、循環器内科医として“一磨き”が出来るような豆知識(specialty)と一般臨床医として知っておきたい豆知識(generality)を1週間に一つだけ披露することにしました。医局員には根拠を持った医療を実践する姿勢を教えたいと思って始めたことですが、今までは雑学の蓄積で何とかなったのですが、私自身が学生時代に“自由人”だったツケが今頃になって響いており、医局員にバレないようにネタ探しに奔走中です。
日本全国がいわゆるナンバーリング内科から完全臓器別診療に移行していく中で、鹿児島に限らず全国的にPCIや心エコーなどのさらに細分化した医療技術しか出来ない医師が急増しています。「君には心カテという“窓”をあげるから、その窓から患者さんを診なさい」-これは循環器医療に携わるきっかけとなった桜橋渡辺病院の南野隆三副院長から頂いた言葉で、未だに私の診療・教育の根幹となっているものです。しかし医師は“窓”におぼれてしまう傾向にあります。PCIやアブレーションの症例では、リスク因子やそのコントロール状況に全く触れずに細かいディバイスの説明に重きが置かれる傾向があります。医療とは血管を通すことではなく、病気を治して、病気の根幹をコントロールして再発を防ぎ、患者さんに快適な人生を歩んでいただくことなのです。我々が医師になった頃は診断カテが出来るだけで憧れた時代で、インターベンションが出来ることはヒーローでした。今はインターベンションが出来ることが当たり前であり、またディバイスの進歩により比較的簡単に成功を得ることが出来る時代となりました。さらに今後は出来上がった病気を治す(インターベンション)時代から病気になることを予知して制御する(先制医療)時代へと発展・進歩していくと思っています。このような時代に対応していくためには“窓”を磨くことに気を取られずに、常に患者さんの状態に気を配りながら全身管理をしていくことが重要だと思っております。
専門医制度改革により“総合診療医”に熱い期待が寄せられております。今の総合診療は診断学+ERという側面が強いように思われます。本来の総合診療医は特殊技能を必要とする医療行為以外はすべて自分を中心とした医療チームで完結することが出来ることを目指していると理解しています。私が理想とする総合診療医はGeneralist with Specialtyであると思っています。すなわち循環器内科というSpecialtyを持って、それ以外の領域のことも十分に理解し、責任を持って医療行為が行えるGeneralistが私の理想です。遅ればせながらそのようなカリキュラムを作成しております。“循環器内科医として医師の基礎を築いた上に各領域のSpecialistから本物を学んだ蓄積が形成したGeneralist”がこのコースのコンセプトです。近日中にホームページ上にこのプログラムをアップしようと思います。このプログラムを目指して全国から医師が集まり、Generalist with specialtyが一人でも多く鹿児島に根付いてくれることを夢見て今日も密かにネタ探しをしています。