鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学

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Department of Cardiovascular Medicine and Hypertension, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University

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教授ご挨拶

教授ご挨拶(バックナンバー)

2014年1月掲載

RA系とバランスのいい医師の育成
心臓血管・高血圧内科学分野教授 大石 充

2014年、初めての鹿児島での新年を迎えて、心臓血管・高血圧内科学教室員、第一内科同門会員および鹿児島県下医療関係者の皆様方、ならびに当Home Pageをご覧頂いている皆様方に謹んで新年のお慶びを申し上げます。2013年2月16日付けで鹿児島大学に赴任してまもなく1年が過ぎようとしており、1年で何が出来たのかという自問自答の毎日です。「あのときもう少し頑張れば」「なるようにしかならないさ」「その時々の最善は尽くした」などいろいろな言葉が頭を巡りますが、「物事は自分で行い、評価は他人がするもの」というのが持論なので評価は皆様にお任せしたいと思います。

さて、昨年末とある雑誌の巻頭言を書く機会に恵まれたときに私のライフワークの一つであるレニンアンジオテンシン(RA)系について書きました。『RA系を勉強すればするほど生き物の仕組みのおもしろさに出くわす。太古の昔、海に住む魚類が陸上生活を営むために必要な海水ボンベとして造られたものがRA系である。この海水ボンベは実に多機能を備えている。海水内では傷がすぐに食塩水で消毒できるが、陸上ではそうとはいかずに細菌感染を引き起こす。従って傷口を早くふさぐ必要があるが、RA系の生理活性物質であるアンジオテンシンIIは非常に強力な細胞増殖作用を有しており、創傷治癒に有利に働くことは明白である。また、アンジオテンシンIIは強力な血管収縮作用を有するだけでなく、副腎に働いてアルドステロンを分泌させて体液・塩分貯留をさせることで出血時の対応に非常に有利に働く。さらに、アンジオテンシンIIは腎臓でのエリスロポエチン産生を刺激することが知られている。まさに、RA系はマンモスがいた頃に狩りをしている人間達を守るためにできた狩りをするための仕組みでもあるのだ。アングロサクソンは狩りをするのでRA系が亢進しており、RA系阻害薬の降圧効果が高く、日本人は海の魚を相手にしていたのでRA系亢進が十分でなく、腎臓での食塩感受性が亢進していると考えると何となく納得できる。さらに神様は合目的に生き物を創造している。陸上動物である証である肺組織にRA系のkey enzymeであるアンジオテンシン変換酵素が非常に多く、強力に発現しており、同じく腎臓組織にもkey enzymeのレニン分泌機構が備わっている。また循環を司る血管壁にもアンジオテンシン変換酵素が強く発現している内皮が覆っている。呼吸―循環―排泄といった陸上生物に最も重要な臓器がRA系で結びつけられて、その最も根本的な基質であるアンジオテンシノーゲンは肝臓で造られている。何と合理的な組織分布を示しているのだろう。でも、最も合理的な仕組みは、飽食の時代の現代ではRA系がむしろ悪役として機能して、食べ過ぎ・運動不足の人間には心血管イベントという罰を与えることをRA系の役割としていることである。神様が作った仕組みとしてこれほど精密なものはないなと・・・』という内容でした。「いくら必要なものであっても過剰になっては身を滅ぼすことになる」という教訓は我々医師にとっても非常に重要なメッセージであると思っています。私は若いころ心臓カテーテルと急性心筋梗塞心電図変化という臨床・研究の武器を持たせていただいたが、その時に「この二つの窓から患者さんを診なさい。決して窓におぼれないように。」と教育担当副院長からいただいた言葉を大切にしています。まさにPCIと臨床研究にのめり込んではいけないというメッセージだったと思う。私のライフワークであるRA系のようにバランスの取れた医師の育成を心がけたいと思っています。

さて、2014年はどのような年になるのでしょうか? 消費税増税、TPP参加など国のあり方に大きく関わる事柄や、高齢化・医師の偏在化といった普遍的ではあるが真綿で鹿児島医療界の首を絞めるような事柄と並んで、鹿児島大学では心臓血管内科の新病棟への移転と医局の補修工事という非常に大きな転機に立たされることになります。しかし、バイタリティあふれる医局員と楽しく、そして着実な進歩を目指して1年を送りたいと思っています。そうすれば自ずと成果は付いてくる―――そんな気がしています。

今年も御指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。