教授ご挨拶
教授ご挨拶(バックナンバー)
2013年2月掲載
平成25年2月16日付で鹿児島大学大学院医歯学総合研究科循環器・呼吸器病学講座心臓血管・高血圧内科学分野教授を拝命した大石充と申します。
当教室は第一内科として約70年の歴史を持ち、初代桜井之一教授、第二代桝屋富一教授、第三代金久卓也教授、第四代田中弘允教授、第五代鄭忠和教授の各先生方のご尽力により発展してきた教室で有り、第一内科の教授としては私が第6代ということになります。
近年の臓器別再編により鄭前教授の時代に第一内科より血液内科、内分泌・代謝内科が分科して、呼吸器内科も別分野として教授を迎えることとなり、私は循環器・呼吸器・代謝内科学分野教授として赴任して参りましたが、循環器内科に特化した実情に合わせて、4月3日より心臓血管・高血圧内科学と名称変更をいたしました。
先代の築き上げた伝統を重んじながらも新たな発展遂げるべく第一歩を踏み出したと思っております。新しい教室名と共に今後ともよろしくお願いいたします。
岡崎⇒大阪⇒鹿児島 血管と共に歩む
私は徳川家康の生誕地である愛知県岡崎市に生まれ、愛知教育大附属岡崎中学、岡崎高校を経て、平成2年に大阪大学医学部を卒業いたしました。
大阪大学第四内科(荻原俊男名誉教授)に入局し、循環器疾患のダイナミックな変化に魅了されて、翌年より循環器救急やインターベンションで有名な桜橋渡辺病院に勤務することになりました。3年半の勤務でしたが、南野隆三、藤井謙司、東野順彦、伊藤浩(岡山大学循環器内科教授)各先生方のご指導の下、心臓カテーテルやCCUを中心とした循環器診療に取り組んで充実した日々を過ごしました。
街のお医者さんに憧れていた医学部生でしたが、いつしか循環器診療および研究に埋没していくようになりました。楽木宏実先生(現大阪大学老年・腎臓内科学教授)および上田真喜子先生(現大阪市立大学病理学教授)のご指導の下、レニン・アンジオテンシン(RA)系と動脈硬化の関連について病理学および分子生物学の両面から研究し、ヒト冠動脈におけるRA系の病理学的役割に明らかにして学位を授与されました。
留学後にはRA系の新しいACE2/Ang(1-7)/mas軸の機能解明や高血圧コホート研究NOAH studyを用いて予後因子・遺伝的負荷・液性因子のシーズ探索も積極的に行って参りました。臨床面では大阪大学でも心臓カテーテル治療を行い、臓器別診療体制移行後は末梢血管疾患や高血圧の診療に携わると共に老年医学診療・教育体制の確立にも参加しました。
循環器医療の「わくわく感」を伝えたい
大学の使命は教育・研究・診療の3本柱であり、当然のことながらバランス良く相互関係を保たせて発展させていきたいと考えています。私が循環器診療を専門に選んだ一番大きな理由は「わくわく感」を感じたことです。
血行動態を生理学的に考えてダイレクトにその反応性を目の前で見ることが出来る。何よりも心停止で来院された患者さんが歩いて帰宅される。カテーテルから繰り出される様々なテクニックで詰まった血管が再開通していく。
しかしながら最も大事なことはそんな病気にならないように適切な指導と一次予防・二次予防をしていく。私はそのダイナミックさと繊細さに圧倒されました。この「わくわく感」を若い人たちにも感じてもらいたいと思っています。そして将来性を持った医師の育成のためには、生理学・薬理学・解剖学などの基礎的な観点から疾患を理解して治療し、その咀嚼を通じて新しい病態解明や治療法開発に結びつけることの重要性を学生時代からface to faceで伝えていきたいと思います。
鹿児島循環器診療および地域医療に貢献できるような、若くて優秀で熱いハートを持った若い医師を一人でも多く育てていきたいと考えています。そして、彼ら・彼女らが鹿児島から日本全国の医療を牽引し、世界の医療を変えていってくれる、そんな夢を見ています。
大学病院が地域最先端医療機関であるべき
診療に関しては、私は「大学病院が地域の最先端医療機関であるべき」という信念を持っています。まずは今年8月からCCUを開設し、第一線の循環器内科医が直接対応できるPHSであるハートコールのシステムを導入します。このように循環器救急に対応しながら、これらの医療機関と良い連携を保ちつつ「最後の砦としての鹿児島大学病院」を確立していきたいと思います。
重症心不全管理や複雑病変に対するPCIなどを責任もって展開していくために、心移植チームへの短期国内留学や有名術者の招聘などを積極的に行っていきます。当科には全国の様々な医療機関から見学が殺到している心房細動に対するCFAEアブレーションや宮崎県から医療ヘリを使って搬送されてくる肺高血圧症といった分野があります。
今まで大きな蓄積のあり日本最先端の技術を持っている心エコー領域では、成人先天性心疾患(Adult Congenital Heart Disease: ACHD)も一つの新しい領域として鹿児島から新しい循環器医療の枠組みを発信していきたいと思っています。
和温療法のみならず心臓リハビリテーションにも積極的に取り組んでいます。さらに高度先進医療として難治性高血圧症に対する腎動脈アブレーションや高齢者大動脈弁狭窄症に対する経皮的大動脈弁置換術などを導入して、今後の高度先進医療にも積極的に取り組んでいきたいと思っております。また、高血圧や動脈硬化といった分野では投薬や生活指導の細部にこだわった診療を行っていきたいと思っております。
これらを通じて鹿児島地域医療から親しみやすくて信頼される循環器内科に育てられればと考えております。
研究のための研究ではなく臨床の疑問を解決できる研究を
研究をする際には常に「臨床での疑問を解決する喜び」を感じられるリサーチマインドを持った臨床医・研究者を育てていきたいと思います。
研究を行っていると「研究のための研究」に陥りがちですが、臨床から研究へ、そして研究から臨床へという双方向性を常に意識する研究を推進していきたいと思っています。自分たちが行っている医療が正しいかどうかをアカデミックに捉えるためには、患者を対象とした循環器レジストリを作成して、前向きに予後を探索することが必須であると考えています。
さらに大学という研究機関であるが故に、分子生物学的手法を屈指して予後を見据えたシーズ探索を行い、新しい治療法の確立へ結びつけていきたいと考えています。鹿児島は比較的医療整備が進んでいる市内と過疎化に悩む周辺地域、また離島医療という独特の環境というバラエティに富んでおり、各地域の鹿児島らしい特色を生かしたレジストリを作成して、最終的にはオール鹿児島レジストリを作成して鹿児島から世界へ新しい医療を発信していきたいと思っています。
特に、離島においては救急医療の対応が困難であり、予知・予防医療の充実が出来るようなレジストリ作成に力を注ぎたいと思っています。また、基礎的研究では私のライフワークである動脈硬化や当科伝統の心筋症研究にiPS細胞、細胞イメージングやエピジェネティクスといった新しい手法を取り入れながら、再生医療や分子生物学的治療なども視野に入れた新しい治療法の確立に取り組んでいきたいと思っております。
伝統ある若い研究室を一緒に作り上げましょう
当科は70年の歴史と伝統がある一方で、鹿児島の循環器医療・教育・研究の担い手として新しい第一歩を踏み出した教室であるとも言えます。今から形作られていく若い教室ですので、OBの皆様のご意見を頂き、若い医師達と共に汗をかきながら、大いに語り合って、充実した心臓血管・高血圧内科学教室を形作って行きたいと思います。若い医師、学生の皆様、また鹿児島の循環器医師の皆様、充実した仲間が語り合い、成長し合えるような教室を一緒に力を合わせて作っていきましょう。いつでも、いつまでも待っています。